史上最低視聴率「いだてん」はどこへ行く

NHK幹部も「特効薬があったら逆にお聞きしたい」…史上最低視聴率「いだてん」はどこへ行く

スポーツ報知/報知新聞社

2019/05/11

みんなが楽しみにしていた「クドカン大河」は、どうしてこんなことになってしまったのか。

4月28日に放送された大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(日曜・後8時)第16話の平均視聴率が7・1%と同作最低、大河ドラマ史上でも2012年11月18日放送の「平清盛」の7・3%を下回る史上最低記録となった。「平清盛」が物語終盤の11月に記録したワースト記録を放送開始4か月の時点で記録してしまう大ピンチだ。

9日に行われたNHKの上田良一会長(69)の定例会見でも「いだてん」に関する質問が続出した。

「視聴率で見れば芳しくないが、別の角度から非常に楽しく見させていただいてます」と、まずはいつもの穏やかな笑顔で話した同会長。

その上で「私は田舎が島原。言葉が(「いだてん」の舞台の)熊本弁とほぼ一緒。自分が育った言葉だし、宮藤官九郎さんが工夫して作られた芸術性の高い作品だけに視聴者が謎解きされながら、楽しんで欲しい。

来年、五輪もありますし、今後、皆さんの期待が沸くストーリー展開もある。

ぜひ、楽しんでいただけたらと思います」と続けた。

さらに「視聴率は気になる?」という取材陣からの再度の問いかけに「私は、とてもいい作品だと思ってます。

楽しく毎週、見させてもらってますし、ぜひ大勢の方に喜んでいただけたらなと思ってます。

当初の宮藤さんのイメージする作品をしっかり作ってもらえばいいと思ってます」と上田会長は淡々と答えた。

しかし、12放送回連続で1ケタ視聴率が続く非常事態に、同席した藤沢浩一ドラマ番組部長の口からは思わず本音が漏れた。

「『いだてん』はこれまでの大河ドラマと違って、近代をほぼ無名の人物を主人公に据えて描くというもの。

日本人がオリンピックに挑戦して半世紀の話を描いていくという我々としても挑戦的な大河ドラマとして今、作っておりまして」とした同部長。

続けて飛び出したのが、「特効薬的なものがあれば、逆にお聞きしたいと思っております」という逆質問だった。

視聴者の受信料で制作しているNHKの番組だけに「逆にお聞きしたい」という発言は、やや無責任にも響いた。

だが、同部長の発言時の真剣そのものの表情を間近で見た私には、真剣に新しくて面白いものを作ろうとしている作り手ゆえの“悲鳴”のようなものが確かに聞こえてきた。

「いろいろな視聴者の皆様からの声も届いておりまして、それについては今、現場でも頑張って、いろいろどうやったら分かりやすくなるかと、そういうことを考えながら頑張ってつくっているところです」と短い中に2度「頑張って」という言葉を続けた同部長。

どうして、こうなってしまったのか―。

私の記憶は2年前の17年4月3日、同じNHK局内で行われた「いだてん」制作発表会見の現場に揺り戻されていた。

会見には、宮藤官九郎氏(48)と中村勘九郎(37)、阿部サダヲ(48)の主演コンビが出席。

13年の連続テレビ小説「あまちゃん」のオリジナル脚本を手掛け、空前のブームを引き起こした宮藤氏が初めて大河の脚本を担当するとあって、約80人の記者で会場のスタジオは埋め尽くされていた。

東京高等師範学校の嘉納治五郎校長の元に五輪の招待状が届いた1909年から64年の東京五輪開催までの激動の55年間を描く物語。

12年ストックホルム大会にマラソン選手として日本人で初めて五輪出場も、熱射病による途中棄権という不本意な結果に終わった金栗四三(勘九郎)と、東京に五輪を招致するために尽力した日本水泳連盟会長・田畑政治(阿部)を中心に2部構成で展開されることも、その場で初めて明かされた。

主演の2人と黒のスーツ姿で登場した宮藤氏は「題名に『噺』と付けたのは、もともとオリンピックに詳しかったわけでないから、前のめりでない人も面白く見て欲しかった。

どこまで本当なのか、うそなのか、うその部分もあると楽しいなと思って作りました」と笑顔で明かした。

金栗氏、田端氏という無名に近い人選についても「何かを達成した人よりも、その影でパイオニアだった人がいたんだという方に僕は目が行く。

僕の認識では時代劇のつもりでやろうと思ってます」と宣言した。

「私の夢をあなたに託すという2020年(東京五輪)につなげる話にする時に(主役)1人じゃ無理だった。

金栗から田端、50年分の夢、金栗から田端にバトンが渡る。

あえて2人にさせてもらいました」と“主演リレー”の理由を明かし、「笑えるところ、あります! 大丈夫です」と笑顔で言い放っていた。

宮藤氏が、いかに「時代劇のつもり」と言っても、大河が近現代史を取り上げるのは86年、橋田壽賀子さん(91)原作で戦後を生き抜く女医の人生を描いた「いのち」(主演・三田佳子)以来、実に33年ぶり。当時から豊臣秀吉や坂本龍馬といった誰もが知る歴史上の人物が主役ではない1年間の放送には危惧する声があったのは確かだ。

「あまちゃん」でクドカン・ファンとなった私自身のことも書く。

リアルタイム視聴ではなくて申し訳ないが、毎週録画した上で「いだてん」を楽しんでいる。

同局の木田幸紀放送総局長が3月の定例会見で「前半の山場」と言った四三が挑戦したストックホルム五輪編も壮大な現地ロケに圧倒されたし、物語の語り部となる落語家、5代目・古今亭志ん生(ビートたけし)の若き日を演じる森山未来と師匠・円喬(松尾スズキ)の別離のシーンでは、思わず涙があふれた。

唯一、毎回気になるのは、四三が体力増進のため、早朝に全裸で冷水を浴びて「ピャー」と叫ぶシーン。

このシーンだけは申し訳ないが笑えないし、金栗氏像を変な方向に引っ張っている気がして違和感を覚える。

しかし、こうした独特の笑いと泣かせの絶妙のバランスこそがクドカン脚本の真骨頂。

そこには「今まで見たことがない新しくて面白いものを見せたい」という高い志が確かにある。

一方で誰が見ても日曜午後8時の裏番組は強力そのものだ。

たびたび平均視聴率が15%を超える日本テレビ系「世界の果てまでイッテQ!」に加え、5日の放送で番組最高視聴率17・7%をたたき出したテレビ朝日系「ポツンと一軒家」もニューカマーとして難敵だ。

年末まで続く「いだてん」の戦いは今後も厳しいものになるだろう。

この3か月、会見のたびに「いだてん」の視聴率低迷に関する質問を受け続けるNHK幹部にも心から同情する。

だが、私は「いだてん」をじっくり見た人に聞いてみたい。

「そんなにつまらなかったですか?」と―。

視聴率という、どこかあいまいな数字で全てを判断し、真剣につくられた本当に面白いものを見逃してしまうのは、もったいないことだと思う。

6月30日からは阿部演じる田畑政治を主人公とした事実上の第2部がスタートする。

金栗以上に無名に近い人物の五輪に人生をかけた戦いをクドカンが、どう描くのか。
私は今から楽しみでしようがない。

テレビ離れが叫ばれる今、視聴率というつかみ所のない数字を超えたところにこそ、ドラマの未来があると思うから。

(記者コラム・中村 健吾)

◆「いだてん」の視聴率推移(関東地区、カッコ内は関西地区、ビデオリサーチ調べ)

▽第1話 15・5%(12・9%)

▽第2話 12・0%(11・5%)

▽第3話 13・2%(11・6%)

▽第4話 11・6%(12・0%)

▽第5話 10・2%(11・7%)

▽第6話 9・9%(8・0%)

▽第7話 9・5%(8・6%)

▽第8話 9・3%(7・7%)

▽第9話 9・7%(8・3%)

▽第10話 8・7%(8・6%)

▽第11話 8・7%(8・9%)

▽第12話 9・3%(8・3%)

▽第13話 8・5%(7・7%)

▽第14話 9・6%(7・4%)

▽第15話 8・7%(8・4%)

▽第16話 7・1%(8・0%)

▽第17話 7・7%(8・6%)

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