中国から逃げ出す台湾メーカー

中国から逃げ出す台湾メーカー、鴻海も“我が家”へ

2019/05/14

(姫田 小夏:ジャーナリスト)

中国・広東省の広州市で今、工場の売却が急増している。

広州では数年前から人件費の高騰が製造業界を苦しめていた。

これに米中貿易戦争が追い打ちをかけている。

米中のつばぜり合いの長期化を懸念する経営者たちが工場の移転を急いでいるのだ。

広州近辺の製造業者がアクセスする専門サイトがある。

設備や原料の調達、製品の販売や輸送、人材の募集、さらには工場の転売情報もキャッチできる便利なサイトだ。

筆者が5月初めにサイトを見たとき、縫製工場は20件程度の転売情報がアップロードされていた。

だが、5月6日にトランプ政権が中国製品の関税を25%に引き上げると報じられると、一気に数が増え、50件を上回った。

こうしたサイトはほかにも無数に存在するので、恐らく膨大な数の工場が売りに出されているに違いない。

大陸の台湾企業が直面する試練

広州一帯には台湾資本の中小企業の工場も多い。

それらは家具や電子製品、縫製・アパレル、皮革製品などを製造する典型的な労働集約型の輸出企業であり、粗利は低い。

関税が25%に引き上げられれば経営が大打撃を受けることは間違いない。

台湾系工場の経営者たちは、すでに昨年(2018年)秋頃から東南アジアへの移転を視野に動き始めていた。

台湾の経済誌が報じた、ある家具工場の経営者の移転劇は興味深い。

彼は、ベトナムを次なる工場拠点に見込んでいた。

だが、ベトナム移転を目論む経営者はもちろん彼一人ではない。

暴利を貪ろうとする現地の不動産業者から「工場用地は1億ドルだ」と吹っ掛けられてしまう。

やむを得ずベトナムは断念し、インドシナ半島を南下することにした。

そして、タイでようやく250万ドルの工場を購入することができた。

同時にメキシコでの生産も視野に入れている。

製造コストは中国より高くつくが、米国への輸送時間が減り、高関税を避けられるためだ。

その一方でこの経営者は「大陸での生産を捨てたわけではない」ともコメントする。
輸出の割合を引き下げ、大陸内での販売の割合を従来の1割から3割に引き上げることで、米中貿易戦争の火の粉を回避できると算段しているのだ。

だが、それは必ずしも名案とはいえない。

大陸における台湾メーカーの競争力がどんどん低下しているからだ。

1990年代から2000年代にかけて、台湾企業はこぞって大陸を目指した。

半導体メーカーや家電メーカーをはじめ、自転車のジャイアント、即席麺の康師傅、ファストフードの永和大王など、一般消費者の間にも台湾メーカーの商品が浸透した。

大陸に進出した台湾企業の働き方は“モーレツ”だった。工場の敷地内に社長自らが居を構えて24時間フル稼働、従業員を背番号で管理し、食事中もラインに立たせるほどだった。

そんな昼夜を問わない働き方で、下請けを脱してブランド企業に成長した事例も少なくない。

だが、今では台湾企業のプレゼンスは大陸企業の猛追で霞んでしまっている。

台湾系工場は、拠点を第三国に移すか、あるいはビジネスモデルの転換を図るか、さもなければ淘汰される──という試練を迎えている。

台湾企業に開かれた「第三の道」

そんな厳しい状況の中、「第三の道」を選ぶ台湾企業も現れている。

それは「台湾回帰」だ。

蔡英文政権は、2018年から台湾への投資誘致政策を進めており、2019年1月からは「歓迎台商回台投資行動方案」(台湾企業の台湾回帰投資行動を歓迎する計画)に取り組み始めた。

一度外に出た台湾企業を再び引き戻そうという政策である。

台湾に回帰する企業には、政府が工業用地、光熱水費、人材、資金などについて支援する。

主な申請条件は、「2年以上大陸に投資し、米中貿易戦争で打撃を受けた独自性のある企業」だ。

この政策を受け、4月26日時点で40社の台湾企業が67億ドルの“回帰投資”を打ち出している。

これは、台湾で2万件を超える就業機会をもたらすとされており、すでに当初の目標を超えたとされている。

大陸から台湾に回帰する企業の中には、自転車メーカーのジャイアントもある。

同社は、米中貿易戦争のみならず、EU市場では中国から輸入される電動自転車にアンチダンピング関税が課されるという二重苦に苛まれていた。

今後は台湾で研究開発、生産、販売を行うという。

また、電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手の鴻海(ホンハイ)科技集団も、ついに台湾回帰に踏み切った。

米中貿易戦争を理由に、大陸での生産縮小を模索中だと言われていたが、同集団の郭台銘董事長は5月8日、台湾メディアの取材に対し、重要拠点である深センと天津のから一部の生産設備を台湾・高雄に移転させることを明らかにした。

もしも、鴻海が台湾回帰すれば、台湾の市民は留飲を下げることになるだろう。

ある市民は次のように語っていた。

「鴻海は台湾の銀行から多額の融資を得て大陸に工場を作りました。

しかし、それでは台湾の雇用増にはならないし、台湾社会に貢献しているとも言えない。

鴻海は大陸に出たきりで、今のところ台湾には何の恩返しもしてないんですよ」。

高雄では、「蒋経国による戒厳令解除(1987年7月)以降、高雄市の地価が初めて上昇した」とも言われており、地元は「長らく低迷した景気がようやく回復する」と大きな期待を膨らませている。

台湾企業の選択は?

アメリカでは製造業の国内回帰が進み、大きな経済効果を生み出した。

台湾の「歓迎台商回台投資行動方案」はアメリカに倣ったものと言ってよい。

さらに台湾には、これから進行するであろう“国際分業体制のシャッフル”の中で、台湾を「世界のサプライチェーンの中心に組み込む」という野望がある。

中国経済の失速は深刻だ。

自動車の販売台数は28年ぶりに前年割れし、住宅市場もバブルのツケを引きずったままだ。

さらに米中貿易戦争が台湾系工場に重くのしかかる。

そうした中、台湾企業にとって、製造業を台湾に回帰させようという政策は大きな“吸引力”となる。

機を見るに敏な台湾企業の選択に注目したい。

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